オースティン・フラゴメン(フラゴメン・デルレイ・バーンセン&ローウィー法律事務所、米国)

昨年12月にEB-5プログラム(投資永住権プログラム)が短期間更新されたことにより、外国人投資家は2016年9月30日までに条件を満たす投資を行い、2017年会計年度以降に米国連邦議会が同プログラムに制限を課す前に、投資永住権の申請を行うことができるようになりました。

2015年度の連邦議会では、EB-5投資永住権プログラムに関してここ数年で最も白熱した議論が行われ、同プログラムの条件を大幅に厳しくすることを目的とする一連の提案が大きな議論を呼びました。連邦議会は最終的に、2016年度に関しては修正なしで現行のEB-5地域センタープログラムを更新しましたが、この短期間の更新により、2017年度におけるEB-5プログラムの改正に関する議論が再燃する結果となりました。最近では、上院司法委員会にて連邦議会の議員や政府関係者が、同プログラムに関する今後の法律について討議を始めました。

来年度からEB-5投資家により厳しい条件が課される可能性があるため、基準が明確で、条件を満たせば許可が得られる可能性の高い現行の規則のメリットを享受するには、外国人投資家は2016年9月30日までに条件を満たす投資を行い、EB-5の申請を行う必要があります。EB-5に関する法的改正が必ずしも行われるとは限りませんが、行動を先延ばしにしていると、2017年以降に投資機会や資金源がより大幅に制限され、さらに厳格な義務の順守が要求されるリスクを負うことになります。

2015年度の連邦議会の状況について
2015年度の連邦議会では、数カ月に渡って議会の主要メンバーや投資移民の関係者がEB-5の改正法案について精力的な交渉を行い、上院議員や関係代表者によって提案された様々な法案に基づいて、妥協案が草案されました。その最終バージョンには、妥当な改正案が含まれていたものの、同時に過剰ともとれる厳しい義務の順守や投資制限が盛り込まれていました。交渉は2016年度の連邦予算討論の最後まで続き、12月末に連邦議会は全面的な改正法案を保留し、単に現行のEB-5地域センタープログラムを短期間更新することを採択しました。

こうして2016年度のEB-5に関する議論は終了しましたが、草案された妥協案が来年度の交渉において基準となることが予想されます。

「雇用創出ターゲットエリア」の指定に関するより厳格な規則
昨年、最も激しい議論が行われたのは「Target Employment Area (TEA)」(雇用創出ターゲットエリア)の定義と指定に関するもので、TEAとは50万米ドル以上の投資でEB-5の投資条件が満たされる地域のことを指します。既存の規則では、TEAは遠隔地または失業率が全米平均失業率の150%を超える地域とされています。州政府には失業率の高い地域を指定する権限が付与されており、州政府当局が地域の人口統計学的特性を考慮してTEAの境界線を定めることがプログラムの規則で認められています。従って、失業率の高いTEAは複数の人口調査標準地域にまががることができ、投資プロジェクトから地理的に離れている地域であっても、地域の通勤パターンや経済的ニーズに合わせてTEAに含むことができます。多くの関係者がこの件に関しては州政府がもっとも豊富な知識を有しており、的確な判断ができると主張しています。

他方、現行のEB-5プログラムの改正を求めている人達は、州政府の関与を排除し、厳格な方法論に基づいてTEAの指定を行うべきであると訴えています。昨年の改正草案では、都市部のTEA投資を、失業率や貧困度が高い、または世帯の平均所得が平均以下で、地理的に厳格に区切られた地域で行う投資に限られています。
特に都市部の投資は以下に限られています。

• 都市部投資優先地域:単一の人口調査標準地域または境界線を共有する複数の人口調査標準地域で、それぞれが大都市統計地域(Metropolitan Statistical Area = MSA)に属し、なおかつ(1)失業率が全米平均失業率の150%を超えている、(2)貧困率が20%以上、または(3)世帯の平均所得が州またはMSAの平均所得の80%以下
• 特別投資ゾーン:(1)失業率が全米平均失業率の150%を超えている都市または群、または(2)投資プロジェクトの主要ロケーションに接する隣接する12以下の人口調査標準地域で構成され、失業率が全米平均失業率の150%を超えている地域

これらの極めて協議の定義は、投資プロジェクトの特定の地域に雇用の創出を限定することを目的としており、より広範囲のコミュニティが利益を享受できるように外に向かって展開する経済発展を生み出すというEB-5プログラムの主要目的を無視することになります。これに対し、特に大都市部を抱える州の関係者は、上記のような制限は、投資プロジェクトのロケーション圏外に居住し、地域の交通手段を利用して都市部に通勤する労働者や、彼らが住む周辺の低所得地域にEB-5投資プロジェクトがもたらし得るメリットやサポートを考慮していないと主張しています。上記の定義が今後実施された場合、現行のEB-5プログラムの条件を満たし、外国人投資家達の間で人気がある多くの都市部の投資プロジェクトが地域センタープログラムの投資条件を満たさないことになります。

仮に上記の定義が実施されない場合でも、TEAを指定する州政府の権限に制限を課す規定を今後導入することを米国市民権・移民業務局が検討していると、上院司法委員会の会議にて同局の幹部が示唆しています。

EB-5移民ビザの割り当て
今後の法案にビザのセットアサイドが含まれることが予想され、これにより都市部TEAプロジェクトの投資家に付与されるEB-5移民ビザの数が制限される可能性があります。昨年末、1年あたりに発行される1万件のEB-5ビザの内、6,000件を農村部、都市部貧困地域、地域センター以外の100万ドル規模のプロジェクトの投資家に割り当てる(各カテゴリーにつき2,000件ずつ)という提案が連邦議会で討議されました。最も人気のある都市部TEAにおける投資については、わずか4,000件の移民ビザが割り当てられており、これらの投資家にとっては永住権の取得がさらに遅れることになります。

より高額の投資額の条件と申請料
今後の法案では、EB-5プログラムの参加者は2017年以降、より高額の最低投資額の条件を満たす必要があるかもしれません。昨年の連邦議会では、TEAプロジェクトへの最低投資額を60%引き上げ、80万米ドルとする提案が検討されました。法案の最新の草案では、他のすべてのカテゴリーの投資について、最低額を100万ドルに維持するとしていますが、それ以前には最低額を120万ドル以上に引き上げる法案も提案されていました。草案の最終バージョンでは、5年ごとに最低投資額が自動的に引き上げられるとしつつ、国土安全保障省に、ほとんど予告なしで制限もなく、必要に応じてより頻繁に最低投資額を引き上げる権利を付与しています。

今後連邦議会は、地域センタープログラムとその他のEB-5投資における投資額条件の違いを排除し、すべての投資カテゴリーに対し、単一の最低投資額を設定することをより本格的に検討する可能性があります。ただし、たとえすべてのEB-5投資の最低投資額が100万米ドルを超えたとしても、同プログラムは世界の他の投資移民プログラムと比べて、比較的高額ではなく、中レベルの投資家でも利用可能であると言えます。

資金源の制限
EB-5の資金源に関しては、すでに非常に厳格な規則が設けられており、綿密な調査が行われていますが、今後の法案では、EB-5の投資家が利用できる資金の種類に複数の制限が課される可能性があります。昨年の草案では、投資家の配偶者、両親、成人の子供、兄弟または祖父母からの贈与でない限り、贈与という形で入手した資金の使用が制限されています。また、借り手の資産を担保とする銀行や貸金業者からの貸付資本の利用も制限されています。家族は知人からのローンを含む、その他の正当な借入金も禁止されています。

昨年の妥協法案におけるこれらの制限はあまり知られていませんが、特に中国を含む多くの国で市民に課されている通貨制限と重なる場合、EB-5プログラムへの参加を検討している投資家の間に委縮効果をもたらす可能性があります。

雇用の創出に関する条件および制限
EB-5プログラムでは、投資家は直接的または間接的に、少なくとも10件の米国労働者の雇用を創出または維持したことを証明する必要があります。現行の法律では、外国人投資家が間接的な手段で雇用創出の条件を満たすことに制限はありませんでした。しかし昨年の妥協法案では、EB-5の申請において考慮されるすべての雇用の内、間接的な雇用は90%以下でなければならないという条件が課され、これにより同プログラムの経済的影響が抑制され、投資家が条件を満たすのが難しくなることが予想されます。

他方、妥協法案では条件の改善もいくつか見られたというメリットもありました。例えば、商業用に開発した不動産のテナントによって創出された雇用も直接的な雇用として数えることが認められるようになります。また、雇用期間が24カ月未満のフルタイムの建設業務の仕事も対象とみなされます。新たな商業企業(NCE)または雇用を創出する組織(JCE)の従業員も直接的な雇用とみなされます。

登録、認定、セキュリティに関する義務
EB-5プログラムの投資家は、すでに過去の移民歴の様々なポイントで詳細にわたる身元調査や審査を受けているにもかかわらず、将来の法案では、地域センターの外国人投資家はより厳しい身元調査を受けることになると予想されます。

昨年の妥協法案では、地域センターの主任が米国市民または合法の永住者であることが求められています。また、地域センターや、関連する商業企業、雇用を創出する組織に関与する人は、国土安全保障省に登録し、厳格な身元調査、セキュリティに関するコンプライアンスチェック、バイオメトリクスチェック、資質に関するテストを受ける必要があります。

また同法案によると、地域センターは国土安全保障省に包括的なコンプライアンスの資料を毎年提出することが求められます。この資料には、地域センターや新たな商業企業、雇用を創出する組織に投資したすべての外国資産の詳細な内訳を記載する必要があります。これには、各投資プロジェクトを実行するためにどのように資産が使用されたのかということに関する詳細な説明、直接創出したすべての雇用の会計、地域センターやNCE、関連するJCE、センターに関連する株の発行元、後援者、ブローカーディーラー、個人投資家の特定に従事しているその他の組織が外国人投資家から収集したあらゆる料金の会計を含みます。また地域センターは、同センターやNCE、JCEに関与している各個人の正当性を初期の所見や年次報告書にて証明する必要があります。

国土安全保障長官は、プロジェクトが米国の公共および国家の安全に脅威をもたらす、または地域センターや企業に関連する人物がスパイ行為やテロ行為、麻薬取引、安全の侵害や財政上の不正を超えるその他の一連の違反行為を行う可能性があると信じるに足る妥当な理由があるというだけで、自由な裁量でEB-5プログラムへの申請を却下または取り消したり、地域センターを閉鎖することができます。これらの条項は、EB-5プログラムは外国人によるスパイ行為、輸出管理規則に違反する重要な技術の国外流出、テロリストの侵入に利用されやすいという根拠のない主張に基づいています。

妥協法案では、外国人投資家はより高額の申請料を支払うことが求められ、これにより監査、視察、調査を含むプログラム実施の強化を狙っています。外国人投資家は標準の申請料に加え、申請ごとに2千米ドルの料金を支払うことになります(以前の提案では、EB-5の申請に含まれるメインの投資家と各扶養家族につき1万米ドルもの手数料を支払うことが要求されていました)。地域センターは2万5千米ドル(投資家が20人以下のセンターの場合は1万米ドル)の料金が課されることになります。

新規法律が既存のEB-5プログラムの投資家にもたらす影響
昨年の法案によって、特に移民ビザのセットアサイドに関して、審理中のEB-5プログラム申請者への影響が懸念されています。上述のように、将来の法案では、EB-5の移民ビザの新たな割り当てが行われ、審議中のTEA投資家に付与されるビザの数が制限されることが予想されます。これにより、現行の規定を信じて投資を行い、申請書を提出し、申請料を支払った投資家に永住権が付与されるのが大幅に遅れる可能性があります。2017年以降の改正法案では、すでにEB-5の申請プロセスを開始している外国人投資家がビザの新たな割り当てによって不当に権利が損なわれないよう、この点について明確にする必要があります。

EB-5地域センタープログラムの再授権
EB-5地域センタープログラムを政治の影響から守り、投資家および地域センターにとってより安定的なものにするために、投資移民コミュニティは長年に渡り、EB-5地域センタープログラムの恒久化を目指してきました。しかしながら、昨年、同プログラムを恒久化する提案が複数提出されたものの、EB-5法案の最終的な草案では同プログラムをあくまで暫定的なもとし、2020年までの5年間のみの延長が認められました。

EB-5プログラムの今後
EB-5地域センタープログラムの再授権まで残りわずか数カ月となり、EB-5プログラムの支持者や議員達はすでに改正法案に関する交渉を再開しました。
同時に、現在EB-5プログラムへの参加を検討している外国人は、同プログラムに今後制限が課される可能性があることに留意する必要があります。現行の規定の安定性を享受するためには、参加を検討している投資家、特にTEAにおける投資を検討している投資家の皆様は、条件を満たす資本拠出を行い、投資移民ビザの申請を速やかに行う必要があります。